これも「胸が金でできていて、尻が銀でできている」お話です。
そしてこれまた、話のメインは仔馬ではありません。
金の胸と銀の尻をもつ男の子
昔々、あるところにたいそう裕福な王がいた。たくさんの馬を飼っていた。
そのなかに1頭、毎晩金の胸と銀の尻をもつ仔馬を産む雌馬がいた。
しかし、産まれるたびに仔馬は消えていく。どろぼうに盗まれるのだろうか。
王は高名な英雄たちに警護させたが、それも失敗つづきで原因さえつかめない。仔馬は毎晩いなくなる。
すると、火傷のある栗毛の二歳馬をもつ、みすぼらしい黄色いフェルトの服を着た召使いの少年が言った。
「ぼくが見張りに立ちます」
「化け物をも倒す英雄たちができなかったことを、お前なんかができるわけがない」王は答えた。
「やってみなければわかりません」とさらに頼むと、王女が横から
「お父様、若者の申し出を無視してはなりません。見張らせてみたらどうでしょう」と口を出した。
王もそれなら、と見張ることを許可した。
少年が見張っていると、北東の方角から1羽の大きな黒い鳥がやってきて、産まれたばかりの金の胸と銀の尻をもつ仔馬をくわえて飛び去っていった。
これまで見張りに立っていた7人の英雄はみな、眠ってしまって気づかなかったのだった。
少年が王に報告すると、王はたいそうほめたたえた。
そして、7人の英雄に北東の方角に向かわせ、仔馬を取り戻させることにした。
英雄たちはみごとな鎧と立派な矢を用意し、羊を殺して食糧とし、北東に行く準備がととのった。
すると、また例の少年が言いだした。「私も行きます」と。
王は認めようとしなかったが、王女がふたたび王をいさめ、少年も英雄たちとともに旅に出ることになった。
英雄たちは立派な馬に、少年は火傷のある栗毛の二歳馬にそれぞれ乗り、旅に出た。
北東の方角にどんどん進み、はるか遠くまで旅していると、金の胸と銀の尻をもつ仔馬が群れなしているのを見つけた。
そのそばで金のひしゃくと銀のナイフを手にした節くれだった老人が、仔馬らに水を飲ませていた。
わきにあるセルゲ*のてっぺんには、あの大きな黒い鳥がとまっている。
あの鳥を殺さねば、仔馬は取り戻せない。
そこで英雄たちは次々と矢を放ったが、まったく中らない。
昼間は百発百中の彼らも、夜はさっぱりダメだった。
そして少年が射る番がきた。彼は一発で鳥をしとめた。
こうして無事に仔馬を取り戻し、彼らは帰ることになった。
ところが、そこで英雄たちは考えた。
このままだったら手柄はすべて少年のものだ。これはいけない。
そう考えて、彼らは宿営するテントの中に穴を掘り、その上に敷物をしいて少年を落とすことにした。
その晩、テントの中で祝宴がもうけられた。
「さあさあ坊や、お前が一番の手柄をたてたのだから、お前が上座に座れ」
と少年を招き入れ、彼を落とし穴に落としてしまった。
そして、7人の英雄はみな、穴の上から少年に向かって糞をした。
少年は穴の中から手綱を使って英雄たちの尻をひっぱたき、尻の皮をむいた。
「なんと往生際の悪い奴だ」英雄たちはそう罵り、少年を穴の中に置き去りにし、彼の二歳馬だけを残し、仔馬を連れて王のもとへ向かって出発した。
じつは火傷のある栗毛の二歳馬は、天馬の化身だった。二歳馬は急ぎ王女のもとに向かい、英雄たちよりも早くたどり着き、王女に伝えた。
「かくかくしかじかで、少年はいま穴の中にいます」
王女は天馬に飛び乗り、少年のところにやってきた。
王女が三つ編みのおさげ髪を穴に垂らすと、少年はそれをつたって穴から脱出することができた。
そうして少年は王女とともに、天馬に乗って王のもとに向かったのだった。
すでに王のもとでは、7人の英雄たちがたいそうもてはやされ、たたえられていた。
そこで王女は王に真実を伝えた。
「少年こそが鳥を射て、仔馬を取り戻したのです。あの7人は少年を穴に落とし、あざむいたのです」
「それが真実だという証拠はあるのか」
「英雄たちの尻を見てください。傷があるはずです」
たしかめてみると、たしかに7人の尻にはそれぞれ手綱でむかれた傷があった。
こうして真実が明かされた。少年こそが本当の英雄だったのだ。少年にはそれこそたいそうなほうびが与えられた。
じつはみすぼらしい恰好をした少年も、それはかりそめの姿だった。人語を解する二歳馬も、少年も化身だった。
ほんとうはとてもきれいな少年だったのだ。
彼は王の婿となり、その後幸せに暮らしたそうな。
(シネヘン・ソム在住のドガルマー氏(1930年代生)より2005年に採録、再構成)
*ブリヤートの家庭には、白樺で作られた馬をつなぎとめるための杭がある。その杭のことをさす。