これも日本に似た話がありますね。
いわゆる「おばすて山」の話と非常によく似ています。
長く遊牧をなりわいとしてきたブリヤートやモンゴルにとって、穀物だとか猫だとかは、じつは「異質」の存在です。
おそらくこの話もどこかから伝播してきたのでしょう。
老人を殺すのをやめたわけ
昔々の話だよ。昔はね、70歳になった年寄りを殺す風習があったんだよ。
でも、いつの頃からか殺すのをやめたんだ。どうして殺さなくなったのかというと、それにはこんなわけがあるんだ。
昔々、あるところにハーンがいたそうな。とても財力豊かなハーンで、いくつも倉を持っていて、なかには穀物がぎっしりとつまっていたそうな。
ところが、どうも夜毎にその穀物が減っていく。なにやら穀物を食べてしまうやつがいるらしい。
そこでハーンは見張りを置いた。すると、あろうことか見張りまで食べられてしまった。
ハーンは民に命じた。「つぎはお前が見張りをせい」と。しかしその見張りもまた、食べられてしまった。
見張りを命じる、食べられる……。その繰り返しで国民はどんどんと数が減っていった。
そんなとき、ある男に見張りの番が回ってきた。
実はその男、70歳を過ぎた父親がいたのだが、自らの父親を殺すことができず、隠れて父親の世話をしていたのだった。
男は父親に言った。
「父さん、申し訳ありません。ついにわたしに見張り番が回ってきました。もう生きて帰ることはできないでしょう」
するとその父親、こう言った。
「お前な、見張りにいくときに猫を持っていけ。きっとなんとかしてくれるから。なにか『トゥルシェク、トゥルシェク』と音をたてるものがいたら、その猫を放すんだ」
男は父親の助言にしたがい、猫を抱えて見張りに行った。
見張りをしていると、遠くのほうでなにか大きな生き物が「トゥルシェク、トゥルシェク」と音をたてていた。
これまた父親の助言どおり、男は猫を放した。
猫はその化け物に飛びかかる。
猫と化け物の格闘が続く。シル!シャル!シル!シャル!
男も加勢して、脇から化け物を叩いた。しばらくして、その化け物は息絶えた。
その化け物、じつは大きなネズミだったのだ。
翌日のこと。
男は生きている。見張りはいつも食べられてしまっていたのに、その男は生きている。穀物も減っていない。
ハーンは言った。
「お前はなぜ、無事に出てこられた? どうやって化け物をたおすことができたんだ?」
男は言った。
「実は私は、父を殺すことができず、隠れて世話をしておりました。その父が私に、見張りに出るときに猫を持っていけと教えてくれたのです。父のことばを信じ、猫とともに見張りをしたことで無事に生きて戻ることができたのです」
そこではじめて、ハーンは気づいたのだった。年長者を敬う大切さに。
それからというもの、老人を殺すという風習はなくなったんだそうな。
めでたし、めでたし。
(シネヘン・ソム在住のドガルマー氏(1930年代生)より2003年に採録、再構成)