原題は「ハーン*のこどもと役人のこども」。
このタイトルだと誤解を招くため、改題しました。
*ハーン:王、支配者のことをさす。
ふたりのこども
昔々、とある国でのお話だ。その国では7歳と8歳になるこどもを毎年ふたり、いけにえにささげるならわしがあった。そのならわしは長いこと続き、ついに7歳と8歳のこどもはふたりだけになってしまった。
「ぼくたちはもうすぐ殺されちゃう。逃げないと殺されちゃう」
そうしてある晩、ふたりは逃げ出した。
暗い中を進んでいくと、遠くに大きなかがり火が見えた。その火の方へ行ってみると、帽子をかぶったおばけと靴を履いたおばけが酒を酌み交わしていた。実はその帽子はかぶると姿が見えなくなる魔法の帽子で、靴は履くととても素早く走れるようになる魔法の靴だった。二人のこどもはそのおばけたちに交じって、酒を注いでもてなして、隙をみて帽子をかぶり、靴を履いて逃げてしまった。急に姿が見えなくなったのでおばけたちはどうしようもなく、ただただ騒ぎ立てるばかりだった。
こどもたちはさらに先を行き、別の国に着いた。誰かがハーンの位に就くとなぜか急に死んでしまう、ハーンが定まらない国だった。そこでこども二人は捕らえられ、無理矢理ハーンと役人にされてしまった。
真夜中のこと。妃が城を抜けだした。役人になったこどもが帽子をかぶり、靴を履いて後をつけていくと、妃は岩穴に入っていった。こどもも入っていくと、中には赤まだらで毛がもじゃもじゃ、鼻をたらしているばけものがいて妃とふたりで将棋を指している。
「目に炎を、こめかみに熾き火を灯した二人のこどもが来たぞ。どうやって始末しようか」
と妃が言う。赤まだらの毛もじゃ鼻たれは
「明日の朝、太陽が赤いうちに俺が一羽のきれいな鳥に変わって、ゲルの天窓の上にとまろう。そしたらお前は言うんだ。『ハーン、ご覧なさい、何ともきれいな鳥がいますよ』と。ハーンが俺を見たら、俺はくちばしでもってそいつの魂を奪おう」
こうして策を練り終えて、将棋を片づけて妃は帰っていった。
こども役人は片づけた場所から将棋の駒を抜き取って、帽子と靴を身につけて、妃よりも先に戻ってきた。
そうしてハーンになったこどもとふたりでその駒を使って将棋を指した。
「赤まだら毛もじゃ鼻たれ、シャク!口のとがった白くて黄色い雌のばけもの、シャク!」
こう言いながら将棋を指した。
それを見た妃は
「何であの将棋とそっくりな駒を使っているんだ?」
と驚き、再び岩穴に行った。それを察したこども役人はいそいで将棋をまとめ、また妃よりも先に岩穴に来て、元の場所に駒を置いた。
遅れてきた妃はばけものにこう言った。
「あなたのと同じ将棋であいつらが将棋を指しているぞ」
けれども将棋はそこにある。不思議に思いながら妃は戻っていった。
またまたこども役人は妃より先に戻り、こどもハーンに言った。
「赤まだらの毛もじゃ鼻たれがきれいな鳥になって君を殺そうとしているよ。だから妃が声をかけても、上を見ちゃいけないよ。君は明日の朝、たくさん薪に火をつけて火箸を持って待っているんだ。僕は帽子をかぶって靴を履いてゲルの上に座っているから」
翌朝、こどもハーンは火をくべさせて、火箸で火をかき混ぜていた。すると妃が言った。
「あら、ハーン、ご覧なさい。なんてきれいな鳥なんでしょう!」
しかしこどもハーンは見向きもしない。その間に帽子をかぶって姿を隠したこども役人がその鳥に近づき、剣を突き刺した。刺された鳥が天窓から落ちてきた。するとこどもハーンはその落ちてきた鳥に火箸を押しつけた。
「何てことをするのですか、ハーン!鳥をこんなにして・・・」
妃はこう言うと、鳥を抱いて逃げていった。
こども役人が後をつけていくと、例の赤まだらの毛もじゃ鼻たれがこう言っていた。
「俺の顔がすっかり焼けてしまった。俺はもうダメだ。もうあきらめよう」
妃は泣いて戻ってきたが、その間にこどもハーンは人々に命令を下していた。
「あの妃は魔女だ。だから戻ってきたら皆で取り囲んで、火の中に入れてしまえ」
そこへ妃が戻ってきた。取り囲まれて火の中に入れられると、煙の中から一匹の黄色い雌ギツネが出てきた。妃はキツネだったのだ。人々はそのキツネを取り囲み、たたき殺してしまった。
こうして、この国にもようやくハーンが定まることになった。もちろんこどもハーンがハーンの位に就いたのだ。こども役人はハーンの側近となり、国もたいそう栄えたということだ。
おしまい。
(シネヘン・ソム在住のドガルマー氏(1930年代生)より2002年に採録、再構成)
北海道大学・北方文化論講座民族言語学研究室の「少数民族の民話」に提供したものを転載。